雑感
 平成6年4月、それまで31年余に渡って住み慣れた名古屋の地を離れ、金沢に移った。それまでも、「法律を知っている」という理由から何度か個人的に「法律相談」を受けたことがあったが、最初から「法律相談」という看板を掲げて相談を行ったのは、金沢大学の法律相談所のお手伝いをした時が、初めてであった。私の出身大学である名古屋大学にも法律相談所があるが、私は所属していなかった。法学部に入学したにもかかわらず、「生(なま)の事件」を扱うのには、何となく抵抗があったからである。それとも関連するが、今まで数回の金沢大学法律相談所での経験を基に、以下に気付いたことを記したい。
 第一は、取り扱う事件についてである。学生法律相談の性格上、主に民事事件を扱うことになるが、なかには、妙な脱税相談?もあるようである。そこで、相談のPRの段階で予め刑事事件、行政事件、労働事件、税務相談、既に弁護士に依頼した事件などは取り扱わない旨を明示したらどうか。そうすれば、そのような事件の相談・拒絶に時間と手間をとられることがなくなるのではないか。
 第二は、相談の答え方についてである。相談では、一方当事者のみから事実についての説明を受け、それを基にして法律判断を下さなければならない。そこでは双方審尋が行なわれているわけではなく、事実は証明されていない。訴訟では多くの場合に事実について争われ、また、立証責任の制度も存在する。相談者は多くの場合、自分に有利なように事実を主張している可能性があり、実際の裁判において相談の結論と同様の結論に達するとは限らない。主張が真実であり、証明されるとしたら、という点を明示したうえで、相談者に答える必要があるのではないか。
 これら以外にも学生法律相談が抱える悩みは多いと思うが、私は、今、この2点がもっとも気にかかっている。
 (「法窓」14号(平成7年3月))


 戻る