R.P.ファインマン(大貫昌子・訳)「ご冗談でしょう、ファインマンさん(下)」(岩波現代文庫)47頁以下
もう一つ、どうしてもブラジルの学生たちにやらせることができなかったのは、質問をさせるということだった。とうとうある学生が説明してくれたところによると、「もし僕が講義の最中に質問をしたとすると、後でみんなに「何で授業中僕らの時間を無駄にするんだ? 僕らは大切なことを学ぼうとしているだぜ。それを質問なんかして何で講義を中断するんだ?」とやっつけられるんです。」
それはいわば足の引っぱり合いみたいなもので、誰も今やっていることが何の勉強なのか、本当はわかっていないくせに、どいつもこいつも知ったふりをして人を馬鹿にするのだ。誰か仲間の一人が質問などして、少しでもわかっていないところのあることを示そうものなら、皆でよってたかってこんな簡単なことのわからぬお前が馬鹿なのだ、そんなことで、こっちの大事な時間まで無駄にしてくれるな、と高飛車にでるわけだ。
みんなと一緒に物を考え、質問をとことんまで話し合うことが、どんなに役に立つものかと僕はやっきになって説明したが、ぜんぜん効果はなかった。ほかのやつに質問などしなくてはわからないというのでは、面子が丸つぶれになるからだ。実にあわれむべき話である。