★「物理なぜなぜ事典@」(日本評論社)のコラム欄に次のような記事が紹介されています。孫引きですが、印象に残ったので紹介します。
T.「試験勉強は人を欺くもの-仁科芳雄の手紙」(154頁以下・田中初四郎氏執筆)
☆ノーベル賞学者の湯川秀樹・朝永振一郎を育てた学者が、弟にあて、いかに勉強すべきかを説いた手紙(「仁科芳雄書簡集」より)。
「前日に翌日のことを予習して、教室にて注意して聞き、(なるべく教室にて、直ちに憶えるようにすべし)、帰りては必ず復習す、此三つをすれば、自ら憶えられるべし。而して一週間の後には、全科につきて大略に復習すべし。これは土曜日の晩か、日曜日の朝にすれば可なり」
「学校以外の参考書を読むべし。我等が学校で学ぶは、参考書を読み得る様な力を与えて貰うだけなり。参考書を読んで、自ら勉めねばならぬ訳なり。今余が言う参考書というのは、必ず学術の事ばかりを言う物にあらず、人物の修養となるべき本を言うものなり。今昔の偉人傑士の伝を読破するのは、何よりもよい事だ。徒に学校の学科に追われて、是等の事を怠ったら、学校で成績はよくても、社会に出てから役に立たぬ」
「試験勉強の如きは、殊に大害あり。殊に夜長く起きるは、最も愚の極なり。かくして勉強するも、直ちに忘れて何の用もなさず。只試験の成績よきのみなり。試験の成績よきとて何もならず。試験は只よく学力がつきたるか否かを、教師が試すのみなり。我等は、只学力をつける事をなす事が必要なり。試験前に俄(にわか)勉強をするは、己の学力なきものを、ある様に教師に見せるものなれば、大なる悪事なり、大詐欺なり、大罪悪なり、教師をだますものなり。かくの如き悪事をなし、加うるに身体を害す、俄勉強は必ずなすべからず。平常より勉強して学力をつける事を注意せよ」
U.「試験が終わったから勉強しよう-朝永振一郎の話」(264頁以下・宮村博氏執筆)
☆ノーベル賞学者の朝永振一郎への友人・荒木三郎の弔辞
「・・・朝永君の学力については、私は専門違いで分かりませんが決してガツガツと勉強しているようには見受けられませんでした。ただ、高等学校1年生、1学期の試験が済んだ時、ちょうど雨が降っておりまして、私は野球部の選手をしておりましたので練習が休みになりまして、彼の家に活動写真を見に行くべく誘いに行ったのでありますが、彼に断られたのであります。その理由が、試験が済んだ日は一番気が落着いて、全科目がよくわかっているので、何ということもなく全科目を読み直すのを楽しみにしているのだから、今日だけは勘弁してくれ、とのことでした。私はこれを聞いて、これは我々とカテゴリーの違う人間だとしみじみ感じたのであります。これは単に勉強家というのではなく、学問を楽しむ人でばければ言えないことだと存じます。成程、彼は決してガツガツ勉強する人ではなかったと思いますが、彼が好きな酒をたしなみながら、悠然と楽しむように勉強していたのではないだろうかと思います・・・」
(平成13年5月11日)