消費者教育と「消費者被害」         金沢大学法学部教授 尾島茂樹
 悪質商法や多重債務など、消費者がかかわる社会問題が、毎日のように新聞で取り上げられている。私の専門は民法であるが、その関連分野として消費者にかかわる法も研究している関係で、消費者対象の講座で消費者法の講演を依頼されるようになって、すでに十年以上が経過している。講座に出席される方々は、概して問題意識が高く、熱心である。このような方ばかりであれば、世に「消費者被害」なるものは存在しないだろうとさえ思う。しかし、「消費者被害」はなくならない。
 先日、石川県の消費生活懇話会に出席した。行政は、消費者被害をなくすため、数々の施策を行っており、その中の重要なものとして、いわゆる消費者教育がある。これは、新聞・ラジオなどを使ったものから、消費者講座等への支援まで、種々の形で行われている。これらの情報に接すれば、自分が今かかわろうとしている取引が危ないことがわかりそうなものだが、「消費者被害」はなくならない。
 思うに、消費者教育は、一定の成果を上げているものの、情報が本当に必要な人にまで届いていないのではないだろうか。悪質商法に騙されてしまう人は、概して自分から関連する記事を読んだり、講座に出かけていったりはしない。現在の消費者教育の重要な課題は、このような人に対し、どのようにして情報を届けるかであるといえよう。

(北國新聞平成13年8月24日(金)夕刊6面の「舞台」に掲載)


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