答案の書き方


★「法律学の答案」の書き方(平成13年7月19日、平成16年3月2日増補、平成16年12月2日一部語句修正)

相変わらず、「法律学の答案」「感想文」の区別が付いていない人がいます。あるいは、区別は知っているけれども、勉強不足のため、「感想文」しか書けないのでしょうか。
「法律学の答案」であるためには、

@問題提起・法的論点(法的問題点)が明確に示されていること(問題文を写すのではありません!)
A必要に応じて場合分けがなされていること
B論点についての判例、とくに最高裁判例があれば、その理由付けも含めて言及されていること
C論点についての学説、とくに通説、有力説が、その理由付けも含めて言及されていること
D判例・学説の議論が検討されていること
E論点についての自分の考え方が、反対説があればそれに対する批判も含め、また想定される反論があればそれに対する再反論も含め、説得力ある理由付け・論理構成とともに示されていること
F法律論であるために、必要に応じて参照条文が引用されていること(条文の文言を写すのではありません!)
 (事例式問題の場合は、要件事実の条文への当てはめを含む)
G法律用語が正確に使用されていること

が必要です。
とくに、判例、通説、参照条文が書かれていない場合や法律用語の使用法が誤っている場合は、大きく減点されると考えてください。
「感想文」では、自分が思ったこと(あるいは、その場で思いついたこと?)が書いてあるに過ぎません。近頃、このような「答案」が多くて困っています。

日頃の勉強は、とくに試験に向けての勉強は、以上のことが答案にあらわせるようなものを心がけてください。
以上、試験勉強の参考にしてください。

なお、勉強は試験勉強に限られません。日頃の勉強の仕方については、勉強の仕方を参照してください。


☆補充☆
 ジュリスト176号2頁以下(昭和34年)に「法律学をどう学ぶべきか−新入生のために−」という座談会が掲載されています。出席者は、石川吉右衛門、雄川一郎、加藤一郎、金沢良雄、平野龍一、三ケ月章、矢沢惇という大先生方です。とりわけ25頁以下には、「試験の答案をどう書くか」と題して、興味深いやりとりが掲載されています。50年ほど前(私の生まれる前!)の座談会ですが、現在でも十分に意義を有する座談会の内容となっています。初心に返るために一読をお奨めします。
 (平成19年8月19日)


☆さらなる補充☆
 米倉明「法科大学院雑記帳」(平成19年・日本加除出版)195頁以下には、「事実関係(当事者の主張を含む)を比較的詳細に提示したうえで、当事者間の法律関係はどうかとか、一方当事者の主張に対して、他方の当事者はどう答えるべきかを問い、これに対して、法的根拠を示した論述をもって答えてもらう」問題についての採点として、次のような視点が示されています。記号は付されていませんが、便宜上、記号を付し、かつ改行して引用します。
 すなわち、「その論述の過程をたどることにより、
 A.基本的概念についての誤解はないか
 B.要件・効果を落ち着いて吟味した後に結論を出しているか
 C.議論を論理的に組み立てる能力(論理的順序を追って整然と述べる能力、理路整然能力、『間然する所なき』展開能力といってもよい)があるか
 D.相手の主張に対して意表をつく返答、当意即妙の切り返しができるか(咄嗟の逆転能力があるか)
 E.自説に対して当然あり得る(ある)反対論にきちんと応接しているか(自説の言い放しに終始している『街宣車型』、『絶叫型』なのではないか)
 F.法律的に意味のある事実とそうでない事実とを振り分ける能力があるか
 G.問題文中に提示された事実(契約内容を含む)の評価において非常識な評価をしていないか
 H.ケースの個性(特に事実関係における個性)を把握して、それを法律的に構成して解決に結び付ける能力(着眼能力、一種の応用能力)があるか
 I.平均人の意思・社会の慣行・類似のケースについての判例に配慮して、バランス(そのような判例とのバランスをもとより含む)のとれた妥当・穏当な結論を、無理の少ない法的論理を駆使して正当化できているか
 J.利益衡量は得意だけれども、法律論はできない、あるいは、不器用だと評価されるのではないか(経済学部学生の答案と区別できないのではないか)
 K.長たらしい前置きがなく、しかるべき段落を設けた、リズミカルな文章で、かつ、こぎれいに答案を仕上げているか
 L.等々
を、観察・評価することになる」とされています。
 米倉先生の基準にいわれる「街宣車型」「絶叫型」ないし「経済学部型(他学部型)?」は、上に示した私の基準では、「感想文」でしょうか。それはともかくとして、自己の主張のみを記した答案は、「法律学の答案」としては、失格だと考えて下さい。この観点では、最低限、判例、反対説への応接が必要です。
 基本的な知識は当然の前提として、その他、「法律学の答案」として必要なものは、多々あります。これらを養うのが、法律学の勉強であり、これを試すのが、法律学の試験なのです。
 (平成20年1月15日)


☆もう1回補充
 平成19年には、新司法試験の2回目の試験が実施されました。完全未習者も受験する実質的には、最初の新司法試験といえます。私は、金沢大学大学院法務研究科(法科大学院)で、1年生の前期に「民法U」を担当していますが、1期生の成績と新司法試験合否との間に非常に強い相関関係があります。1年生前期の成績と強い相関関係があるということは、ある意味で3年間の入れ替わりがおきにくいことを示していますが、逆に、合格者は、1年生前期から授業についてはきちんと対応しているといえるのではないでしょうか。

平成16年度前期「民法U」成績順位 平成19年度新司法試験合格
7〜10
11
12〜14
15
16〜41

 平成19年度の新司法試験の合格者のうち、標準コース(3年間在学)で合格したのは7名です。1年生前期の「民法U」の成績の順位の内訳は、上記表の通りです。41名が受講しました。合格者の一番下位が15位ですが、この順位でも100点満点で80点以上をとっています。また、6位以下の順位上位者で不合格だった受講者も、新司法試験では、もう一息だった人が多いようです。
 いずれにしても、合格者は、授業を大切にしている。授業の結果と新司法試験の合否には相関関係があることを強調したいと思います。(また、大学の教員の採点にも充分な意味があることも……)
 (平成20年5月1日)

あまり書きたくない補充
 平成20年の新司法試験では、既修了者や既修者(短縮コース)の合格者の関係で、1年次に私の「民法U」を受講した学生の合格者は1名となってしまいました。1名ということは、場合によっては氏名を特定できるということですが、顕彰の意味も込めて公表しますと、当該合格者は、当該年度の「民法U」で1位の成績をとっていました。ここでも、私の授業の成績と新司法試験の合格の結果に如実に相関関係が現れてしまいました。
 (平成20年9月11日)


☆またまた補充
 京都大学で民法を担当されている松岡久和先生のHPにある「法律科目の答案作成上の注意点」です。リンクは貼りませんが、参照したい方はURLを入力してご覧下さい。基本的には、上の記述と変わらないと思いますが。

http://www.matsuoka.law.kyoto-u.ac.jp/SemiMaterials/how2ans.htm

 (平成20年7月24日)


☆重要な補充
 平成20年11月11日に加藤一郎先生(東京大学名誉教授)がご逝去されました。加藤一郎先生は、私の指導教官の指導教官です。私が大学院に進学した頃、加藤一郎先生は、科学研究費による大きなプロジェクトの代表者をされており、私もそのプロジェクトの末席に加えていただきました。直接お教えを受けることはほとんどありませんでしたが、私が私法学会において個別報告した際には、暖かいご発言をいただき、感謝でいっぱいです。
 加藤一郎先生は、試験や答案のあり方についてもご論稿にまとめてお考えを発表しておられますので、ここにご紹介し、あわせてご冥福をお祈りしたいと思います(私が上に示した「答案の書き方」は、ほぼこのご論稿によっています。私の先生の先生のお考えですから)。

 加藤一郎「試験の答案と採点(民法ノートQ)」法学教室18号62頁以下(昭和57年)

 (平成21年6月12日)


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